米澤穂信 『春期限定いちごタルト事件』

 うるおいをもたらしてくれるような小説を読もうと思い,本棚から米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)『春期限定いちごタルト事件』(ISBN:4488451012)を取り出してくる。
――結論からいうと,目論見は失敗しました。題名と表紙から甘酸っぱさ&ほがらかさを想起し,期待した私が浅はかだったよ。
 語り手は,高校に入学したばかりの小鳩くん。相方は,小動物ちっくな小山内さん。系統としては〈日常の謎〉。5つの短編を重ね合わせることで,1つの大きなストーリーへと繋がっていく趣向。
 何はともあれ,背丈が小さくって制服の袖がぶかぶかであるうえ寡黙少女な小山内さんへのキャラ萌えを楽しむべき一冊
――なのかなと思って構えていたら,第3話「おいしいココアの作り方」で,ぞわぞわっとした感触に包まれる*1。この辺りで,どうもシリーズの企図を読み誤っていたらしいことに遅まきながら気がつく。そういえば,小鳩くんと小山内さんは〈小市民〉たらんと欲していることは端から宣言されていたけれど,その理由は何だったっけ?
 ここから,小山内さんは《キャラ》から《キャラクター》へと装いを変え始める。この変貌っぷりが面白い。そして幕を開ける第4話「狐狼の心」…… 《キャラ》としての小山内さんも十分に愛玩するに値するけれども,《キャラクター》としての小山内さんの方が魅惑的*2
 シリーズとして展開されており,続作で物語の掘り下げが行われるのだろう。どのようにキャラクターを造形していくのか,次なる展開が楽しみ。

追記

 id:REV:20061214:p5 でネタにされたけれど…… 

こうですか?
 「許せないもの日記」にお心当たりの方,どうぞご一報ください。

*1:ネタバレになっちゃったらゴメンなさい。『シンフォニック=レイン』に例えると,リセだと思っていたらファルシータさんだったのか! みたいな。

*2:伊藤剛のいう[キャラ/キャラクター]概念の話,とご理解ください。