桜庭一樹 『荒野の恋 第一部』

 桜庭一樹(さくらば・かずき)『荒野の恋 第一部 Catch the tail』(ISBN:4757722893)読了。
 年甲斐もなく胸が高鳴る。
 主人公は12歳の少女,山之内荒野(やまのうち・こうや)。中学入学式の日,彼女は,電車の中で少年と出会う。そして,少年は,家族になった――
 ガール・ミーツ・ボーイものの見慣れた構成要素で出来ているはずなのに,ぐいぐいと引き込まれるのは文体が醸し出す魅力だろうか。恋に対して奥手な少女の身体を有しながらも,成熟した女性の視線も併せ持つ思春期。少女の内面を垣間見たようで,心がときめく
 いや,べつに,ふくらみかけにブラジャー,みたいな見え見えの誘導に引っかかったりはしてないですよ。あははーっ。
 でも,〈匂い〉のフェチシズムを描写できるところはジュブナイルの一歩先,ですね。ドキドキ。
 破天荒な父親というキャラクターの存在が普遍化を邪魔しているきらいはありますけれども,それでも心底「上手い」と思うような小説でした。