麻耶雄嵩 『翼ある闇』

 麻耶雄嵩(まや・ゆたか)『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』*1読了。
 とてつもなくエグい。描写が,ではなく,作品の狙いが。
 探偵・木更津のところへ依頼状と脅迫状が届く。ヘイスティングスを自認する「私」を伴って館へ赴くと,すでに惨劇は始まっていた。そして次々に提示される首無し死体。探偵が関係者を集めて推理を披露するも――
 そこで名探偵・メルカトル鮎が登場。って,なんですか,これは。探偵役が二人?
 そして結末では,あまりの展開にツッコミを入れる気など失せてしまいう。
 探偵小説の《お約束》を取り込み,本格ミステリの《作法》を逆手にとる。解説において野崎六助が本作を評し,

 作者が一つ一つ謎解き小説のエッセンスを無心に積み重ねていった頂上に,いきなり奈落があくように,アンチミステリが出現してきたようにも思える

と述べているのは的を射た指摘。読者としては途方に暮れるのが関の山。
 本作は1991年の作品で摩耶のデビュー作。1980年代後半の《新本格》と1990年代後半の《ファウスト系》の合間に位置するものだということを知れば,なるほど,と思う(が,感心はしない)。
▼ おとなりレビュー

 この本を読んだ後の、すがすがしい脱力感はなんだろうか。
http://d.hatena.ne.jp/mutronix/20050218/tsubasa

*1:単行本:ISBN:4062053438,新書版:ISBN:4061816934,文庫版:ISBN:4062632977