池上俊一 『シエナ』

 結婚式に出るため東京へ向かう。移動中の航空機では,池上俊一(いけがみ・しゅんいち)『シエナ――夢見るゴシック都市』(ISBN:4121016149)を読む。
 端的に言って,ダメな本です。学者が書いた本の悪いところばかりが目に付く。
 イタリア中北部,トスカーナ地方にあってフィレンツェと派を競い合った中世都市を題材に取り上げたもの。素材としては間違いなく面白いはず。ところが,西洋史の研究者である著者が「わたしだけの凝った作品」を目指してしまったため,何が楽しいのかつかみかねるような話題を延々と繰り出すものが出来てしまった。独りよがりも甚だしい。
 テクストはあれどコンテクストを持たないため,事典のような叙述になっているのが欠点。もしコントラーダ(街区)について知りたいと思い立ったような場合には参照すると助けになるだろうが,ひとまとまりの読み物としては評価できない。