芸術新潮 「イギリス古寺巡礼」

 芸術新潮2007年4月号「イギリス古寺巡礼――中世の美を訪ねる旅」(ASIN:B000O58YOK)を眺める。
 これまで西洋美術に触れる機会を得たが,「英国の」「中世の」「キリスト教の」が重なると,まったくもって不知である。本特集は,英国の中南部に散らばるイギリス・ロマネスクを紹介するものということで興味深く読んだ。
 時代としては11世紀半ば〜12世紀,ノルマン・コンクエストによってノルマンディーより渡ってきた貴族達によって建てられた城や聖堂の数々が取り上げられているのだが,そのいずれもがひっそりとした佇まいの中にあり,歳月を経て鋭角を失った石は温もりを感じさせる。金沢百枝(美術史家)の語りや視線も穏やかで好ましい。
 半円アーチを多用した石造建築ということでは大陸のロマネスク様式と同じなのだが,イギリス・ロマネスクは妙に陰影があるような気がしつつ写真を見ていたのだが,次の解説で得心がいった。

 イギリス・ロマネスクの聖堂をまわっていてつくづく感じるのは,「飾りが好きなんだなあ」ということです。(中略)こうしたイギリス・ロマネスクの「飾り好き」は,物語表現を好んだ古代ローマの影響が大陸の国よりも小さく,装飾を好んだケルトやゲルマンの文化を色濃く受け継いでいるせいでしょう。
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 添えられた地図を見るに,どの建築も足を運ぶには難儀しそうな町にある。写真にしても,たくさんの人々が足を運んだであろう痕跡にあふれているものの,今現在は(地元民にしろ観光客にしろ)人の気配が希薄であって侘びしさが滲み出ている。表紙の写真が,それを如実に表しているといえるだろう。
 おそらく,このように特集されなければ目にする機会などなかっただろう。いずれも,ほっと人心地つかせてくれる優しい顔立ちの建築を見ることが出来たのは幸いである。


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