西村悠 『二四〇九階の彼女』

 行き詰まって途方に暮れてから,かれこれ二週間。アウトプットが得られないのはインプットが不足しているからだろうと思って,二晩でライトノベルを10冊ほど読んでみる。
 その中で特筆しておきたくなった一冊を挙げると,西村悠(にしむら・ゆう)のデビュー作『二四〇九階の彼女』〔1〕(ISBN:4840235929)。
 無数の階層からなる塔の形をしたセカイの中を,ボクとカエルが旅をする。階層間を移動するには,「扉」という場所に「鍵」とされる人物を連れて行かなければならない。そして,各々の世界で示される〈幸せ〉は何処か狂っていて……。
 あらすじを見た限りではベタに陥ってしまいそうな不安があったのですが,それでも購入してあったのは題名の魅力でした。
 率直に申し上げて,あまり文章は上手くないです。会話文と地の文とが1行ずつ反復しているところなどは,硬さを感じる。何より,主人公よりもヒロインの少女よりも,芝居がかった語りをするカエルの方に注目がいってしまう文章というのは不都合があるように思います(笑)
 ですが,2006年の段階において,この環境設定と人物設定で作品を書いてしまうというのは何より凄いことだなぁ,と。

 形式としては『キノの旅』に代表される電撃連作短編ものの一つですが、『キノ』にある説教くささやヘンな達観が全部消えて、かわりに男の子の圧倒的な無力感が挿入されているという、いわばセカイ系『キノ』。

http://d.hatena.ne.jp/cherry-3d/20061011/1160555148

 この手のロードノベルはいろいろ読んできましたが、これは雰囲気作りが上手いためか差別化に成功していると思いました。

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