平井正 『オリエント急行の時代』
平井正(ひらい・ただし)『オリエント急行の時代――ヨーロッパの夢の軌跡』(2007年1月,ISBN:9784121018816)を読む。
1883年10月4日(日)午後7時30分にパリのストラスブール駅を出た第1号列車の道筋に沿い,ドイツ,オーストリア,ハンガリー,ルーマニア,ブルガリア,オスマン帝国へと話が進む。叙述は単なる旅行箪ではなく,むしろ当時の政治情勢をふんだんに織り込んだものになっている。
例えば,1885年にベオグラードを経由してコンスタンティノープルへ向かう経路が開通したにも関わらず,不便な「ブカレスト経由コンスタンツァ行き」が残されていた話。ルーマニアにとっては,パリ行きの鉄道が自国を通るかは死活問題であったのだと述べられている。オリエント急行は輸送路であるというよりも《西欧》とバルカンが繋がっていることを表象するものである,というのが本書の基本姿勢。
19世紀末から20世紀初頭にかけての西欧史を,ある一点から具体的に詳述したものであり,興味深く読んだ。