谷原秋桜子 『砂の城の殺人』

 谷原秋桜子(たにはら・しょうこ)『砂の城の殺人』(創元推理文庫ISBN:9784488466039)を読了。
 〈美波シリーズ〉の第3作であるが,前2作が富士ミスからの移管であったのに対し,本作は新作書き下ろし。
 倉西美波の今度のバイトは廃墟探検家の撮影助手で,なんと「2日で5万円」。深い山の中にある目的地に足を踏み入れると,そこにミイラが――。
 文章の運び(特に会話進行)にぎこちないところがあったり,家の間取り(というか柱のあるべき場所)が妙だったりはします。既刊3作だと歴史に残る名作にはならないだろうな,というのは正直な感想。でも,推理小説の定番たる《嵐の洋館》を書いてみました!という作者の意気込みがひしひしと伝わってくる意欲作です。作者に力量がついてたところで仕切り直しをし,別シリーズを手がける頃には凄いものを書いてくれるのではないか,と思います。
 巻末では柴田よしきが「きらきら輝く青春ミステリ」と題して解説を書き,「骨太の本格推理青春小説」であるとして本作への賛辞を送っていますが,これには大いに賛同。作中の人物(美波)のみならず,作者(谷原秋桜子)の成長をも見守りたくなる。
 良いものを読んだ,と幸せにひたりました。グロース株よりもバリュー株への投資を志向する読者諸氏へ推薦。