太田肇 『個人尊重の組織論』

 研究会に参加するため東京へ。移動中の機内で太田肇(おおた・はじめ)『個人尊重の組織論――企業と人の新しい関係』(中公新書ISBN:4121012860)を読む。
 著者の専門は経営組織論。伝統的な日本的経営にみられるのが《組織人》であったのに対し,新しい社会において個人と組織はどのような関係を志向していくべきかについてモデルを提示したのが本書。そこでは「従来の組織人モデルを前提とした直接的統合から,プロフェッショナル・モデルを前提にした間接的統合へ」というパラダイム転換を説いている。
 概念レベルで抽象化した議論であるが,終身雇用制と年功序列制が見直されていくなかで生じている現実の問題として長時間労働,転勤,昇進,家庭生活との調和といったものを摘示しながら話題が展開する。結論としては,組織の効率的な運営と個の尊重という二律背反からの脱却を目指そうとしており,いずれかの極に偏らない大変にバランスのとれたものに仕上がっている。
 あとがきを読み終え,奥付を見たところで渋面を作ってしまった。
 本書の刊行は1996年。十年前の論なのに,今日においても示唆を得られるモデルである――というか,この十年でとてつもなく偏ったところに来てしまったのだなぁ,と。