大学院はてな :: 実労働時間は在社時間の8割?

 研究会で検討課題となったネットブレーン事件東京地裁平成18年12月8日判決,労働判例941号77頁)を読んでいたところ変わった説示に出くわしました。
 論点は,システム開発に携わっていた労働者の労働時間(つまり,時間外割増賃金の請求)。この会社では,以前はタイムカードで出退勤時刻を管理していたが平成13年頃からCybouzを用いて管理するようになり,従業員は画面からクリックして「出社時間」および「退社時間」を記録していた。
 タイムカードは打刻された時刻にその場に居たことは証明できるが,その間の時間帯すべてが労働時間であったとはいえない――との反論が持ち出されることがあります。例えば,就業規則に定められた終業時刻の後もダラダラと居残りをした後にタイムカードを打刻たようなことがあれば就労していたとは言えない,というもの。
 この問題については,タイムカードが適切な時刻に打刻されているかどうかをチェックするのは使用者の責務であるとされており,反証に成功しない限りにおいて客観的な資料であるタイムカード記載の時間をもって実際の労働時間と判断するのが一般的です。
 さて,今回の事件。Cybouzによって記録されたデータをもって出退勤時刻とする,としたうえで,次のような説示があるのです。

 「出勤時刻から退勤時刻までの間の時間すべてを労働時間と認めてよいかについては疑問が残る。本来,時間外勤務については,当該時間ごとにどのような勤務をしたかについて原告が個別に主張立証すべきものであるところ,本件ではそれはなく,他方,出退勤時刻については明確になっており,出勤後退勤までの間は基本的に労働していると認めるべきであることからすれば,少なくともその8割については実働時間とみてこれに基づく金額を被告が支払うべきものとするのが相当である。」

 この判断は,かなり異常です。これが慰謝料請求であれば裁判所の判断で割合を操作できますが……。控訴審に係れば変更される可能性の高い箇所でしょう。