谷川流 『絶望系』

 谷川流(たにがわ・ながる)『絶望系 閉じられた世界』(ISBN:4840230218,2005年4月)を読みました。
 杵築(キヅキ)のところへクラスメイトの建御(タケミ)から電話がかかってきた。彼の部屋に天使と悪魔と死神と幽霊がいるらしい。
――本文5頁目にして超展開。読者として,これをファンタジーとして読むべきものなのかどうか判断を付けたいところですが,浴衣をまとった美女とはいてない幼女の掛け合いがこちらの意向などまるで無視して繰り出されます。しかも,読者からしてみれば作品内での取っ掛かりとなりそうな杵築は,この事態を平然と受け容れているようで……
 実験作と銘打っているだけあって,滅茶苦茶です。面白いとは思えない。しかし,谷川流の作品の中では『絶望系』が最も読んでみる価値のあるものだと思う。そして,本作に込められた不条理に惹かれるようでは人としてどこか壊れているのだろう,とも。
 設定の中に放り込まれたキャラクターが足掻く様をメタ的キャラ達と共にただ見下ろしているだけの悪趣味な話。そこには偽善の欠片すら無い。現実感覚から遊離しているのでケッチャムのような凄惨さなどは伝わってこないのだが,それだけにかえって人の生が何とも薄っぺらなものであることを意識させる。
 『絶望系』をツマラナイと言えるようなら,未だ大丈夫だろう。*1


▼ おとなりレビュー

「非常に面白かった。ただし、萌えとかライトノベル的設定に対する身も蓋も無い書き方をしているので小説としてはどうしようもない気もする。」

http://kiicho.txt-nifty.com/tundoku/2005/04/__3ad2.html

*1:余談。絶望した!と叫べるのはヴァイタルに溢れている人だと羨ましく思う今日この頃。