紅玉いづき 『ミミズクと夜の王』

 胃が痛むもので床に伏せつつ,紅玉いづき(こうぎょく・いづき)の『ミミズクと夜の王』(2007年2月,ISBN:9784840237154)を読みました。デビュー作であり,電撃小説大賞〈大賞〉受賞作。
 食べられたいミミズクと,人間嫌いなフクロウのお話。
 《喪失と回復》という民話のセオリーを踏まえているのですが,本作では《喪失》の描き方が秀逸。盗賊の村に囚われ,物心の付く前から奴隷的拘束に置かれていたミミズクを主人公に据えることにより,まず自らが喪失という状態にあることを認識するに至るまでをも描いています。
 そして,ミミズクの《回復》に関わる周囲の人物も暖かい。

「そういう時はね――ありがとう,って言えばいいの」

感謝という概念すら知らなかったミミズクが,出不精な聖騎士とその妻,それに四肢萎えの王子らと交わることで言葉を知り,自らを取り巻く世界を新たに構築していきます。
 シンプル,オーソドックス,ストレートな物語というのも良いものです。
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