米澤穂信 『インシテミル』

 昨晩,米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)の『インシテミル(THE INCITE MILL)』(ISBN:4163246908)を読み終わりました。
 アルバイト情報誌に載った「人文的化学実験の被験者」を募る求人広告。「時給1120百円」との記載を面白がってか,見落としたか,はたまた何らかの意図があったのか,とにかく応募者12人が集められた。山奥の地下に建設された実験施設に被験者は7日間に渡って閉じこめられる。
 まず思ったのは「米澤穂信はこんな悪趣味な話も書けるんだ……」ということ。人を馬鹿にした作品というと清涼院流水が真っ先に思い浮かびますが,清涼院がミステリというフォーマットそのものをひっくり返しているのに比べれば,本作は枠の中にある。本作『インシテミル』は,本格ミステリの〈お約束〉に沿いつつ風刺的に取り扱っている。この空疎な読み物を飾るには,確かに西島大介の装画が相応しい。
 本格ものっぽいパズル的要素をしっかりと踏まえておきながら,舞台が箱庭であることに自覚的。本作については〈動機〉を話題にするのは野暮の極み。ミステリ好きを自称する方には是非とも淫してみることをお薦めする。
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