橋本紡 『半分の月がのぼる空 4』

 ここしばらく観たり読んだりしたものは,あえて何か書き残すまでもないというようなものでした。橋本紡(はしもと・つむぐ)の『半分の月がのぼる空』も,第2巻は一旦ケリを付けた作品の続刊を書き始めるにあたっての整理,第3巻は幼なじみ登場という具合で特に印象にも残らず。
 それが第4巻『grabbing at the half-moon』(2005年2月,ISBN:4840229368)は良かった。第2巻から第3巻にかけては主題(モティーフ)にあたるものが朧(おぼろ)であったのがいけない。キャラクターに関しても,ほにゃっ娘小夜子さんは実に良い。
 ヒロイン里香の主治医を主人公に据えたエピソード「夏目吾郎の栄光と挫折」を中心とする第4巻は,心臓外科の手技で知られる若手医師が伊勢の病院に流れてくるまでの半生録。この巻ではインターリュードとして17歳のボーイ・ミーツ・ガールを阻む障害も描かれるのですが,生活難という〈大人の苦労〉の影に置かれると〈夜中に窓から少女の病室に潜入する苦労〉は滑稽でしかない。
 かかる構成を採った理由として,前巻から続く少年少女のエピソードを中断したままにしておけなかったという趣旨のことが巻末の〈あとがき〉で述べられています。裕一と里香の恋の進展を本筋と捉える読者のためには必要な判断だったとは思いますが,なまじっか吾郎と小夜子のエピソードが読めるであったものですから惜しいと思うところです。