朱門優 『ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。』

 昨晩,旧知の人物(松本旅行で馬刺を奢ってもらった人)から連絡がありました。依頼内容は「ニッカ余市蒸溜所限定発売シングルモルト余市12年(カフェグレーン)ウイスキー」を買ってきて!というもの。いつでもいいと言われたのですが,都合のつけられる日が他に無かったので早速お出かけしてきました。
 函館本線小樽駅より先1時間に1本の運行になるのですが,たまたま乗った快速を降りるとちょうど接続列車があった――けれど,あえて中央バスに乗り換える(JRは大っ嫌いなん)。余市の十字街で降りて柿崎商店でホッケ定食(500円)を昼食に。ニッカの試飲場で食後酒代わりにウヰスキーをいただいてから,売店でお買い物。

 さて。
 小旅行のお供に連れて行ったのは,朱門優(しゅもん・ゆう)『ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。』(2008年6月,ISBN:9784758040037)。
 同級生で幼馴染みないちこは,学校へも巫女装束でやってくる。言葉巧みなだけならまだしも主人公のことを下僕(わんちゃん)扱いする始末。ところがある晩,主人公はいちこから《お見合い》を申し込まれた。ところがこの《お見合い》というのは,この町の神社に伝わる祭りのことで――
というもの。この祭りに係る8日間における出来事が各章を構成する。読んでみると,この初日のシーンがなかなか頭に入ってこない。学園ものギャルゲーよろしく登場人物紹介と状況説明とが行われる場面なのだが,デコード(decode)に手間取ってしまう。この時点での登場人物は実質2人しかいないのに。キャラと舞台の設定披露が冒頭部で濃密に行われている感じ。

ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。 (一迅社文庫)
 他方,祭りの期間に入ってしまうと突っ掛かることなく読み進められます。何せ登場人物が少ないので表紙の絵にも出ている幼女の正体が××だろうというのはバレバレ。それならどういう結末に持っていくのだろう?と訝しんでいたのですが…… 大団円に至る場面でかくも正面から人生訓をぶつけてくるのは意外でした。率直に言って,結末でデウス(Deus)が強引に場を纏め上げているところはあまり好きになれません。って,神様に文句を言うのは不遜でしょうか。
 いちこには自分語りをさせる安易なことをして恋愛問題に当たっているのに対して,もう一つの家族問題についての処理はバランスを欠くところだったのではないでしょうか。前者は《お見合い》を通じて当人が能動的に関わっていますが,後者については教え諭されて納得させられたというような印象が強い。〈水〉に関しても収束は上手く決めていますが,翻って発動の方を捉えてみるとちぐはぐな感じがします。
 会話の掛け合いは楽しいですし,全体の構図も良く考えられていると思います。が,『アネモイ』には惜しまれるところがあるために評価が下方に振れてしまいます。ストーリーに関わってこない部分を削ぎ落として,そのぶん心情を喚起する描写に振り向けてくれていれば,と思うところです。