早狩武志 『ハーフボイルド・ワンダーガール』

 昨晩,就寝前に読んでいたのは早狩武志(はやかり・たけし)『ハーフボイルド・ワンダーガール』(ISBN:9784758040280)。著者は『僕と、僕らの夏』『群青の空を越えて』『潮風の消える海に』のシナリオライター
 幼馴染みの女の子,美佳からの突然の告白。
 「責任とってくれるよね」
未だ何もしていないのに……。果たして父親は誰なのか,そもそも美佳は本当に懐妊しているのか。たまたま告白の場に居合わせたミステリー研究会会長の綾と,ちょっぴりヘタレな俊紀とが調査に乗り出す。
 ミステリードラマではありますが推理物ではありません。あえていえばホワイダニットの一種ですが,綾と俊紀が語り手を交代しながら進んでいくことにより,美佳のとった行動の謎に焦点が絞られていきます。
 この作品は,文章に接してる最中の心地良さが評価のポイントですね。トリックがあるわけでないし,キャラの魅力で迫るような造りでもない。読了後に感銘を受けるようなことはないが,かといって嫌悪感を抱くような場面もない。ミステリー仕立てであることから生じる僅かの緊張感を駆動力にして,軽快にストーリーが進行する。サイクリングを楽しんでいるような心地。
 著者自身が《あとがき》において,本作執筆の動機を

 「読み終わった後,興奮して頭に血が上ってしまうような話ではなく,幸福感に包まれながら安らかな眠りに就けるような物語が書きたい」

としています。この目的から本作を評価すれば,惜しみなく満点を付けられる出来でしょう。