森博嗣 『少し変わった子あります』

 森博嗣(もり・ひろし)の小説『少し変わった子あります』(ISBN:416326440X)を読了。一気に読むのが勿体なくて,読み残していた1/3を楽しんだ。
 森博嗣の書いたものは大部分を読みましたが,本作が最も好み。
 私事になりますが,以前お見合いらしきものをしたことがございまして……。それで感じたことなのですが,初めて会った人の《人となり》を限られた時間の中で掴むには,共に食事をするのが最も相応しい,と。洋食(特にフランス料理)だと,テーブルマナーを自然と意識するのか,あまり個性は出てきません。それが和食(しかも懐石料理)になると,箸の取り方,あるいは器への手の添え方などに無意識が現れます。食事中の何気ない仕草は,見ていて興味がつきません。
 ただ,異性への好感度を図る第一指標が声であるのは譲れないところ。近所のスーパーに少々高めの快活な声で呼びかける店員さんがいて,その人が勤務しているシフト時間帯だったりすると,ちょっと嬉しかったり。
 さて話を戻すと,本作はとある大学教師が友人の紹介で奇妙な店で食事をするという小説。その店では,食事のお供として若い女性を呼んできてくれるという趣向がある。客の支払う対価は,自分と女性とで合わせて二人分の食事代。肉体的な接触は許されず,呼ばれてくる女性と会えるのも一度限り。
 淫靡かつ頽廃的でありながら乾いた空気を纏う作品。男性が女性の食事風景を眺めている様の描写はフェティシズムに溢れているのに,肉欲的なエロティシズムが一切含まれないからでしょうか。