杉井光 『さよならピアノソナタ 1』

 昨日,帰りの機内では杉井光(すぎい・ひかる)『さよならピアノソナタ』の第1巻(2007年11月,ISBN:484024071X)を読んでおりました。到着するまでに読み終えられなかった――というか,途中で無性に音楽が聴きたくなってしまったので中断。作品世界に浸り込む程に読む手が止まってしまうという困った小説。
 登場人物は4人。

  • 主人公,ナオ。へたれ。
  • メインヒロイン,真冬。コミュニケーション不全症候群な転校生。
  • サブヒロイン,千晶。元スポーツ少女。幼馴染み。
  • 神楽坂先輩。策士。クールビューティ。

 暴言を吐きましょう。これ何ていう一ノ瀬ことみと田中美沙と来ヶ谷唯湖の出てくるギャルゲ?
 物語の基本構造は,トラウマにより心を閉ざしている真冬の 攻略 解放で,そのために4人でバンドを組もう,というもの。ただ,真冬はクラシック専門のピアニストという設定なので,ロックとのブレンドになっているのが妙味。 

 終盤直前,ベースを探して歩く場面は(どこで見つかるかが先読みできてしまうために)若干間延びした感がありました。それを除けば,構成も文章も上質の出来。特に,

「……少年,ベースってなんだと思う?」
「バンドがもし一人の人間で。ヴォーカルが頭で,ギターが手」
「ドラムスが足だとしたら,ベースはなんだと思う?」
174頁,神楽坂先輩の台詞

この問いかけから始まるシーンは秀逸でした。人は言葉によって動く生き物であるということを,まざまざと認識させる。こんな言葉をもらえるなら,私はその人に命運を預けます。