北村薫 『夜の蝉』

 《円紫師匠と私》シリーズ第二作『夜の蝉』(ISBN:4488413021)を読む。
 ここしばらく年度末の慌ただしさに身を置いていたので,北村薫(きたむら・かおる)ならば鎮静剤になるだろうか――と思って書棚から取りだしてきたのだけれど,この巻は存外にざわざわとした読後感を残すものでした。
 収載されているのは3つの短編。「朧夜の底」では書店に陳列されていた本の並びが変えられており,「六月の花嫁」ではチェスの駒が冷蔵庫で発見され,表題作「夜の蝉」では郵便で送った招待状の宛先と差出人が書き替えられていた……。いずれも人間関係の移ろいを描くものであり,しっとりとした文章が流麗な良い作品ではありました。が,少なからぬ醜いものが潜みます。ちょっと“今この時に触れたかったもの”とは違っていたかな。