栗本薫 『ぼくらの時代』

 文学研の読書会から,追悼のために栗本薫としてのデビュー作『ぼくらの時代』を取り上げます――との連絡をもらっていたものの都合により不参加。でも本は手配してあったので,この機会に読んでみる。1978年の作品で江戸川乱歩賞受賞作。
 幾つか出ている版のうち,購入したのは最も新しい新風社文庫版(ISBN:4797496029)。表紙にむさ苦しい人物が3人描かれていますが,おそらく主要登場人物のイメージ図でしょう。それでもって舞台はテレビ局で,歌謡番組の収録中にスタジオ内の観客席にいた少女が死ぬという筋立て。アイドル全盛期のレトロな雰囲気の詰め合わせ。
 第1,第2の事件まではハウダニット&フーダニットという趣で進んでいたものが,解決篇ではホワイダニットとしての色合いが濃厚。アイドルの追っかけという舞台設定自体も当時の世相を強く反映しているところであるが,それ以上に作品の受容に限定を掛けるのが本作における〈動機〉。事件の手口は少し時代が古くなった程度だと思いますが,おそらく当世においてこの〈動機〉は事件を成立させないのでは? ミステリとしては賞味期限をとうに過ぎていて,青春小説としての価値も批評においてでしか掬えないだろうと感じました。