菜の花の沖 (3)

 司馬遼太郎菜の花の沖』第3巻(ISBN:4167105543)、読了。
 高田屋嘉兵衛は、最大級の輸送船「辰悦丸」を建造し、蝦夷地(北海道)へと上陸する。そこで目にしたものは、松前藩の目に余る振る舞いであった。アイヌ民族は虐げられ、搾取の対象となり、人としての扱いを受けていなかった。その頃、ヲロシャの赤蝦夷(ロシア人)が勢力圏を拡大しつつあることが有識者によって認識されるに至る。1799年、江戸幕府は北方警備とアイヌ民族の保護を目的として、東蝦夷*1 の直営に乗り出す。
【書評】
 話が北海道に及ぶと、あまり面白くない。興味を掻き立てられないというべきか。だって、小学校の社会科で学んだ郷土史が脳裏をよぎるんだもん(^^; 出身地の話だと、どんなに素晴らしい描写をされても、実物を容易に思い浮かべられるために「そうかな?」と思ってしまう。例えば、次の一節

――なぜ、蝦夷地が好きなのだろう。
と、嘉兵衛は自問したことがある。がすぐにその自問の愚かさに気づいた。憧れには、理由づけられる根や葉がなく、なければこそ、この奇妙な精神現象があるのではないか。
(強いていえば)
と嘉兵衛は考えたことがある。
極北だからではないか。(343頁)

 言わんとするところ、分からないでもありません。NOCCHI大槍葦人)さんが作画を手がけた作品に『北へ。』という北海道もの(?)があります。決して、南へ行こうとはしないのです。まぁ、人類がアフリカの大地溝帯で発生して地球全域に生息域を広げていったということからすると、北へ向かうのは性(さが)なのかもしれませんけれど。だったら、スペインというはるか西の果てへと来てしまった私は?(^^;
 興味をそそられるのは、作中でたびたび登場する工藤平助『赤蝦夷風説考』(163-170頁)。この書が時の老中・田沼意次を動かしたのだという。当時、ロシアという存在が、どの程度認識されていたのかを読みとることが出来て面白い。

*1:太平洋側の意。箱館(函館)から厚岸あたりまで。