菜の花の沖 (6)
司馬遼太郎『菜の花の沖』第6巻(ISBN:4163631607)、読了。完結。
クナシリ(国後)の沖合でリコルド率いるロシア船の強襲を受けた高田屋嘉兵衛。彼は、ロシアへ赴くことを承知する。捕虜としてではなく、両国の和平をはかる仲介者となるために。
いざ北へ。だが、心づもりはどうあれ、実態は生命の手綱を握られた人質である。しかも氷に閉ざさる冬のカムチャッカで、栄養不良(脚気)が同行した3人の命を奪った。嘉兵衛ですら失楽し、猜疑心に囚われる。
そして、春。いつ戦禍が起こってもおかしくない張りつめた中で、交渉がはじまった――
【書評】
感動という言葉を気安く使いたくはありません。しかし、他に適切な表現が見つからない。言葉に不自由し、情報を持たず、国と国との利害に挟まれながら必死にもがく人々の姿を、他にどう表せましょうか。
嘉兵衛が、自分のことを話し、とくに箱館の友人が僧になったこと*1 について物語ったとき、リコルドは、お前さんはいい友達をもってこの上もない物持だ、といった。嘉兵衛は、「それも二人!」といった。むろんリコルドをふくめたのである。
「二人も! 何と沢山の友達だろう!」私は思わずつぶやいた。
と、リコルドは書いている。(339頁)
嘉兵衛は、三平*2 と話をするに及んで、はじめて自分が発したことばのすべてが相手に正確に伝わるという人物にめぐりあえた。片手では拍手できないように、言葉というものは相手との間で成立するものだということが、しみじみとわかった。(347頁)
この辺りは、視界を歪ませながら読んでいました。この書に出会えた巡り合わせに感謝します。