ホルムヘッドの謎

 林望ホルムヘッドの謎」(ISBN:4167570017)読了。
 リンボウ先生の著作で最初に文庫所収となったものだとか。そのせいか、読んでいて初々しさがあるんですよね〜 文章に硬さといいますか、緊張感がある。最近のものになると「そこらへんにある《なんでもないもの》を斜に構えてみる」というのが持ち味になっているのですが、本作だと「めずらしい《誰も知らないようなこと》を書いてみる」といった感じがあります。
 全13篇のうち、6本がイギリスもの。で、そこに、そろりそろりと、本業である*1 書誌学・国文学の話題を織り込んでいく。書き始めるにあたり、編集者氏から「エッセイの連句ってのはどうでしょう?」との助言を受けたとのことですが、全体を眺め渡してみると「なるほど」と肯かされる。ただ、「源氏物語」にまつわる「頭中将は何故泣いたか」や「あばら家の姫たち」などは、構成の点からすると少々離れすぎとも思える。
 わずか10年ほどの間に100冊を超える著作を上梓している筆者、近年のものは筆が荒れているような気がします。最初期に著された本作と比べると、ですけれどね。
 うわ、やられた! と思ったのは表紙画。牧歌的な田園の夕暮れ時が描かれています。これを「林望イギリスはおいしい=英国かぶれ」という図式で見ると、手痛い仕返しをくらうことでしょう*2

*1:その後、林望氏は大学教授を辞しており、現在はエッセイストを専業にしておられる。

*2:その正体は、川瀬巴水木版画「埼玉・田宮村」