幻の旅

 併せて林望「幻の旅」ISBN:4167570041)も。
 1993年11月に上梓された、これまた最初期の作品。

旅行の実の楽しさは、旅の中にもなく後にもない。ただ旅に出ようと思つた時の海風のやうに吹いてくる気持ちにある

 萩原朔太郎『虚妄の正義』を引用して、この本は始まる。言うなれば本作は、《旅に出よう》と思った時に心の中から湧き出でて去っていく、儚(はかな)い風を集め、叙情的に歌いあげた詩集。そこに現実感はない。はたして「僕」は誰なのかわからないし、ここに書かれていることが真実なのか虚構なのか曖昧模糊としている。
 そう。だって、これは「幻の旅」なのだから。

幻の旅 (文春文庫)