ゾウの時間 ネズミの時間

 本川達雄ゾウの時間 ネズミの時間――サイズの生物学」(1992年、ISBN:4121010876)読了。
 動物の大きさは大小あれど、一生の間に心臓が鼓動する回数は同じである。ならば、サイズによって時間も価値観も相対化できるのではないか。
 本書は、この《仮説》をとことんまで突き詰め、理屈の通るようにしたものである。ともすればトンデモ本の仲間入りをしかねないところなのだが、そこは科学者。危ういところは著者本人が開き直って「ここは少し変なのです」と警告してくれる。
 たとえば《島の規則》。島に隔離されると、ゾウは小型化し、ネズミは大型化する。これは、島には捕食者(外敵)が少ないため、身を守るために大型化していたゾウは大きいままで居続ける理由がなくなり、逃げ回りやすいように小さくなっていたネズミは小さいままでいなくても良くなる。これを人間に当てはめると、大陸では常識はずれの傑出した偉人が生まれるが、島国ではずば抜けた人物は登場しなくなる。その代わり、庶民のレヴェルは底上げされるのではないか、と説く。
 まだある。動物には、体の大きさに相応しい行動圏というものがある。まず自然界を観察して生息密度を割り出し、そこで得られた数値を人類に当てはめてみる。すると、日本の人口密度(1平方kmあたりの個体数320)に相当するのはネズミであって、日本の家を《ウサギ小屋》と呼ぶのは褒めすぎではないか、という。
 これを「そんなバカな!」と笑い飛ばしつつ、着眼点の鋭さを楽しみたい一冊。
そんなバカな!―遺伝子と神について (文春文庫)