ルポ 解雇

 昨日、機内で読んでいたのは、島本慈子(しまもとやすこ)「ルポ解雇 ― この国でいま起きていること」(2003年、岩波新書)。読み始めたら、良く存じ上げている日本労働法学会の方々が次々に登場(ちなみに、私も学会の末席におります)。かなり精力的に取材活動をしたあとが見受けられました。
 岩波書店の『世界』に連載されたルポルタージュもの、ということで、読み始める前は運動論的なものかと警戒しておりましたけれど、至極まっとうな現状認識のもとに書かれておりました。でも、その現状というものが、想像を絶するほど過酷なのです。私は労働事件の裁判例分析が本業ですから、労働者が裁判を起こすのは不可能に近いということを知っていますし、本書で取り上げられている事例の幾つかは判決文の原文を読んでおりました。だからこそ島本氏が訴えかけているのは嘘偽りない事実だと認識できましたが、解雇に直面したことの無い人にしてみれば「必要以上に不安を煽っている」というふうに捉えられてしまうかもしれません。
 第2章「解雇理由はこうして作られる」などは、会社という組織の恐ろしさを知るには格好の箇所でしょう。裁判では「事実認定」というものが行われます。裁判官が当事者の主張を聞き、もっともらしいものを『事実』とするのであって、それが『真実』であるとは限らないのです。解雇理由は決まっているものではなく会社が「作る」ものだ――という部分は、労働者として生きていくつもりの人たちには読んでおいてもらいたい。
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn0310/sin_k142.html

ルポ解雇―この国でいま起きていること (岩波新書 新赤版 (859))