評論家入門

 小谷野敦『評論家入門――清貧でもいいから物書きになりたい人に』(ISBN:4582852475)読了。
 ネットワーク社会では、人々がめいめいに持論をぶつけ合う喧噪状態が常態である、とは誰の弁であったか。とかく批評がもてはやされる時代である。ならば職業的にやりたいという人が出てきて当然であり、需要があれば供給が発生する。
 本書は、あまりにズバリな書名。しかも、ご丁寧に副題までついている。内容を強引にまとめると、(1)評論家は世間並み以下の収入しか得られない職業である、(2)十年くらい修行すれば評論家にはなれるかもしれない、というもの。あと、(3)俺はこうして文藝評論家になったという自伝を披露。
 要は「本を出版したところで何も起こらない」「評論家になっても恵まれた生活が待っているわけではない」「それでもやりたきゃ、まずはエッセイストから始めてみれば?」という。なんか、大学院に入院して9年目になる我が身の行く末を説いているようで、嫌だ。本書は、精神的重圧を加えて同業者の産児制限を試みているのだろうか(笑)
 やたらと挑発的なのも本書の特徴。既存の《権威》を揺さぶることで自我を確立しようとしているあたりに、著者の若さが垣間見られる。自覚的にやっているとはいえ、人格攻撃も褒められたものではない。小谷野は、本書を
物したことで、自らが嫌悪する対象へと自己を追いやってしまったのではないか。ふと心配に思う。