The Ordinary and Hesitation of Dr.Mizukaki

 森博嗣ミステリィに《あとがき》を書かない作家である。それが理論から作品を構築する作者「らしさ」を演出するのに一役買っているだろう。
 しかし、こぼれ話をするのが嫌いというわけでもないようだ。『工学部・水柿助教授の日常』(ISBN:4344009088)と続作『工学部・水柿助教授の逡巡』(ISBN:4344007247)は、自伝的小説である。工学部の助教授だった水柿君は、ミステリィ好きな奥さんのために推理小説を書く。ところがウケがよろしくなかったため、出版社の編集者に読んでもらったところベストセラーになって――
 まるっきり、作者本人の話じゃないですか(笑) もっとも、読者が断片的な情報をつなぎ合わせて勝手に構築し脚色した「作者」像ですが。ここまで開き直ってやられた日には、こちらも騙されて差し上げましょう。どうあがいたって、所詮、小説世界は虚構で出来ているんです。真実性の多寡など関係ないこと。
 水柿君が小説を書き始めるのは2冊目の冒頭から。物語づくりを自覚的に行っていることが明確に示されている。手の内をさらされたのでは、下手な書評など書けないなぁ……
 読者サービスで出来ているシリーズ。全編が《あとがき》な読み物。中途半端な森ファンなどに、決して読ませてはならない。心酔するか拒絶するかの選択しかないのだから。手に取るなら、覚悟召されよ。
工学部・水柿助教授の日常 (幻冬舎文庫) 工学部・水柿助教授の逡巡