MANGA en el mundo

id:tanizakura:20050208#p6 に関連して。

北米で少女マンガ誌創刊 小学館集英社白泉社
北米での市場拡大を狙い、「NANA」など日本で人気の少女マンガ6作を集めた月刊誌「SHOJO BEAT」が、6月に創刊される。集英社小学館が出資し、海外でのマンガ出版を手がけているビズ(本社サンフランシスコ)が、8日発表した。
http://www.asahi.com/culture/update/0208/010.html

この asahi.comによる記事は私も目にしていたのですが、どうも意図が掴めませんでした。どこがかというと、すでに海外でも日本製マンガは広く親しまれているのに今さら何を? と思ったん。
 最初は、現地支局がいい加減なエンターテイメント記事を送ってきたのかと思ったのですが、良く見ると日本からの報道になっている。調べてみると、もう少し詳しいものが日経プレスリリースにありました。

 VIZは、すでに報道発表している通り、今春、小プロ・エンターテインメントと合併し新しい総合エンターテインメント企業となります。この新会社にとって最初の重要な事業となる『SHOJO BEAT』の創刊は、親会社である集英社小学館白泉社を加えた、日本の代表的マンガ雑誌を出版する3社から選りすぐりの作品を混載してよりインパクトのある雑誌を提供することで、更なるマンガ市場の拡大を目指します。
 新しい少女マンガ雑誌の創刊に至る市場背景としては、VIZが3年前に創刊した北米版『SHONEN JUMP』が、現在その発行部数を30万部に伸ばすなど、今、日本のマンガは海外の若者の間で読み親しまれていること、また、少女マンガ自体も大変人気の高いジャンルとして注目されており、女性読者からの支持も高まっていることなどがあげられます。
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=92825&lindID=5

 つまり、日本の投資家に向けて発表された文書なので、日本の視点で書かれていたというわけです。それが違和感の原因でした。私の手元に、amazon.comを通じて輸入した英語版『カードキャプターさくら』(ISBN:1892213362)がありますが、初版は2000年5月。すでに前世紀の終わり頃には少女マンガは北米でも普及していたことが実証できます。
http://www.tokyopop.com/(訳書の出版社)
 少女マンガそのものが珍しいわけではないとなると、このビジネスの新規性は「月刊誌で少女漫画を提供する」ところにあると言えます。冒頭にある合併の話は、こちらに発表がありました。
http://www.viz.com/newcompany/index_j.html
 念のため補足しておくと、日本側出版3社は元々繋がりがあります。小学館から別れて出来たのが集英社で、その子会社が白泉社。俗に一ツ橋系と呼ばれるグループを構成しています。連合を組むのは、べつに今に始まったことではありません*1
 現在VIZ社の社長をしている堀淵清治氏についてのインタビュー記事があったので、参考資料に掲げておきます。
http://www.topics.or.jp/rensai/hito/2002/0927.html
http://www.alloe.jp/ew/iiboshi/index2.html


 さて、此処までが前置き。以下、元スペイン在住者として現地報告を織り交ぜての回想。
 前提知識として知っておいてもらいたいのは、欧米では「本屋さん」が明確に2種類に分かれるということです。「書籍屋さん」は格調高い文献を揃えているのに対し、軽い読み物は「雑誌屋さん」に置かれているのです。これが、日本の常識に照らすと分かりにくいところ。先ほど例に挙げた『CCさくら』ですが、ミラノでは地下鉄駅のキオスク(=雑誌屋さん)に置かれておりました。ペーパーバックで、6,000リラ(最初にイタリアを訪問したのは2000年12月でして、ユーロ導入前でした)。ISBNが付いていないので、書籍ではなく雑誌として扱われていることが見て取れます。それが、ここ数年でISBNが付いているマンガが増えてきたように感じます。これを、従前「読み捨てる娯楽」であった日本製マンガが徐々に地位向上を遂げてきた証、としたら言い過ぎでしょうか。アメコミとは違うものと認識され、別の棚に置かれるようになりました。少なくとも“MANGA”や“ANIME”といった単語が、日本的な意味と同一のものを指し示すスペイン語として通用していることは事実です。
http://www.mangaes.com/(スペイン*2 のオタク系ニュースサイト)
 では何故、単行本が先行して日本国外に輸出され、ようやくここに至って漫画雑誌が登場したのか。それは、欧米に「連載作品を掲載する《雑誌》という文化的基盤が無かったから」という説明が相応しいかと思います。寡聞にして日本漫画の創生期を上手く語ることが出来ないのですが、昭和初期を代表する田河水泡のらくろ」の成り立ちをみると昭和6年から雑誌『少年倶楽部』への掲載が始まったとあります。先に定期刊行誌が存在しており、そのコンテンツとして漫画が加わったということでしょう*3
 定期的・継続的に供給されるものを受け入れる消費者の存在は特異なものなのかもしれません。スペインやドイツにも漫画情報誌はあるのですが、『ぱふ』の作品紹介に『××メージュ』の読者投稿を混ぜたようなものでして、漫画雑誌と呼べるようなものは見たことがありません。しかもレヴェルは高くない。ひどいものになると、ファンアートの引用(まず間違いなく違法)だけで出来ているものまであったりして…… その誌名が“Hentai”だったりすると、もう居たたまれません。
▼ ドイツの情報誌“Koneko”

 思いつきだけ披露しておくと、「連続テレビ小説」や「大河ドラマ」の在り方と漫画雑誌を絡めて文化論に出来るかもしれない。テレビドラマを例に取ると、アメリカン・コメディは1話完結が基本。見逃したところで何の問題もありません。『スヌーピー』『タンタン』にしても同様。新聞だって、配達制度がある日本が異常なのであって、欧米では欲しいときに街角のスタンドまで買いに行くのが一般的。――って、なんか随分と大仰な文化論になってしまって私も驚いています(笑)
 要は、コンテンツを受け入れてくれる消費者が居て、そこに対して適切な供給が行われるならば、単行本であろうと雑誌であろうと(映像作品だろうと)媒体には関係なく普及するだろうということなのですが。
http://d.hatena.ne.jp/./genesis/20040608/p1(拙稿:あずまんが大王スペイン語版の紹介記事)
 でね。締めくくりに言っておきたいのは、現状は未だ「適切な供給」が行われていないということ。スペインでも(日本製の)ANIMEやMANGAは入手できたのだけれど、「どうしてこれが翻訳されたの?」という作品も少なからず存在していた。彼らは、そもそも他の存在を知らないから、与えられたもので満足しているのだと思う。そこそこな作品でも、それしか選びようが無いなら摂取されていきます。
 ファンサイトを開いている人に呼びかけたい。日本語で紹介記事を書くにしても、固有名詞をアルファベット表記で書き添えたりして、日本語を母語としない人達への気配りをしてあげられないだろうか。そうすれば、「声優つながり」とか「作者つながり」で興味を持ってくれた外国人にも、良い作品(とそれを愛好するファン)の存在を伝えられるのに。

*1:例えば、共通のオンラインショップを構えている。
http://www.s-book.com/

*2:es は、スペインを表す地域コード。

*3:この辺りは門外漢が想像で述べているところなので、信用しないでください。