Candy Candy

 id:nagatani:20050315#p3(長谷邦夫氏)に寄せて。
 水木杏子(原告X:物語作者)×いがらしゆみこ(被告Y:絵画作者)『キャンディ・キャンディ』事件に関する判例研究動向を調べたのですが、資料価値があるかと思いまして、所在情報を載せておきます。なお、『キャンディ・キャンディ』裁判には別な被告を相手取ったものもあるため、これは「第一事件」と称されることがあります。

▼ 第一審 東京地裁判決 平成11年2月25日 *1→判決原文
 出版差止請求事件 請求認容
 この段階は、X‐Yの関係をどうみるかという事実認定が争われている。裁判所は、本件漫画を「二次的著作物」(著作権法2条1項11号)であると認定。

  • 中島徹 《判例評論》「連載漫画の原作者と作画者の権利関係」『判例時報』1706号201頁
  • 日向央 「漫画の作画部分のみの利用にストーリー原作者の権利が及ぶか」『著作権研究』26巻335号
  • 長塚真琴 《判例研究》『北大法学論集』50巻5号133頁
  • 和田光史 「キャンディ・キャンディ事件」『CIPICジャーナル』88巻54号

控訴審 東京高裁判決 平成12年3月30日 *2→判決原文
 この段階における法律的な争点は、著作権法28条の解釈。二次的著作物の原著作物を創作することが出来るのは原著作者に限られる(法27条)が、出来上がった二次的著作物に対しては権利が併存する(法28条)との立場をとっている。そこでYは、「ストーリーを表したコマ絵」と「ストーリーを表していないコマ絵」に分け、後者は二次的著作物ではないとの主張を展開した。
 控訴棄却 (Y敗訴)

▼ 上告審 最高裁第一小法廷判決 平成13年10月25日 *3
 上告棄却 (X勝訴)
 学説は、賛否両論。原作(ストーリー)が翻案物(イラスト)に影響を及ぼす範囲の広さについて、解釈が分かれている。

  • 青柳署子 《判例評論》「小説形式の原稿に基づいて制作された連載漫画が同物語原稿を原著作物とする二次的著作物であるとされ、原著作物である物語原稿の著作者からの同連載漫画の著作者に対する同連載漫画の主人公を描いた絵の作成、複製又は配布の差止請求等が認められた事例」『判例時報』1800号195頁
  • 中平健 《平成14年度 主要民事判例解説》『判例タイムズ』1125号164頁
  • 金子敏哉 《商事判例研究》「長編連載漫画における原作者の権利範囲と著作権法28条」『ジュリスト』1243号144頁
  • 辻田芳幸  『平成4年度 重要判例解説』(ジュリスト1224号)
  • 辰巳直彦 「連載漫画は原作原稿の二次的著作物であるとした事例」『民商法雑誌』127巻1号114頁
  • 松村信夫 「二次的著作物の利用と原著作物の著作者の権利」『知財管理』52巻8号1185頁
  • 作花文雄 「原著作物と二次的著作物の創作性の区分と融合」*4 『コピライト』2002年1月号
  • 小泉直樹 「講演録:二次的著作物について」『コピライト』2002年6月号
  • 和田光史 「判例評釈 漫画をめぐる2つの最高裁判例 (1)キャンディ・キャンディ事件」『CIPICジャーナル』142号18頁
  • 水谷直樹 《知的所有権判例ニュース》『発明』99巻5号101頁
  • 『時の法律』1656号68頁
  • 『月刊民事法情報』184号45頁

 以上の資料は、北海道大学大学院法学研究科にて作成された判例データベースをもとに、筆者がNII国立情報学研究所の「論文情報ナビゲータ」で出典を確認してまとめたものです。


 議論にあたっては、2つのことを考えなければならない。
 まず、「物語を考えた者」と「絵を描いた者」の関係。

共同著作物
2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの(法2条1項12号)
二次著作物
既存の原著作物を使用して創作したもの(法2条1項11号)

このどちらであるかによって行使できる権利が変わってしまう。長谷氏は、ここに編集者が加わる余地があるのではないかと指摘される。裁判所は、その可能性を否定したわけではない。そのような主張が提出されなかっただけのことである。事実認定の問題なので、当事者の主張立証によって判断される。契約書の雛形を検討することで、この部分は問題になるのを防ぐことが出来るかもしれない。
 その先に待っている法律論が面倒。二次著作物であるとした場合には、原作者は創作の権利を専有するので、翻案者(マンガ家)を支配することが出来る。著作権法がそう決めているのだから、どうしようもない(裁判所や青柳論文は、この論理で結論を導いている)。しかし、漫画家をそこまで従属的な地位に置いてもいいのだろうかという意識から、判旨反対を唱える学説も有力である(その例として、堀江論文、日向論文、中島論文、松村論文など。)。


http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html著作権法:法令データ提供システム)
http://read.jst.go.jp/ (研究者ディレクトリ)
http://www.k-nagi.com/水木杏子
http://www.candycandy.net/いがらしゆみこ

*1:掲載誌は、判例時報1001号229頁/判例タイムズ1673号

*2:掲載誌は、判例時報1726号162頁

*3:掲載誌は、判例時報1767号115頁/判例タイムズ1077号174頁

*4:直接には、キューピー人形事件(東京高裁・平成13年5月30日判決)について論じたもの。