BITTERSWEET FOOLS

 minoriのデビュー作である恋愛ゲーム『BITTERSWEET FOOLS』。2001年8月発表と多少古く、PC版は既に生産終了。これを健全化させたPS2版(ASIN:B00006AO0L)に、さらにシナリオ2本を追加したDC版(ASIN:B0000694RA)を買い求めました。
http://www.minori.ph/lineup/bsf.html
SIMPLE2000シリーズ Vol.9 THE 恋愛アドベンチャー ~BITTERSWEET FOOLS~ SIMPLE2000シリーズ DC Vol.01 BITTERSWEET FOOLS THE 恋愛アドベンチャー
 全22話で構成されている。大きく2つの流れがあり、時に交錯はするものの重なりはせず、群像劇として物語は綴られていく。
 奇数話に登場するのは、アランとティ(Tea)。「社会の掃除屋さん」を営む青年のもとに、マフィアの抗争で両親を失った少女が預けられる。偶数話は、世間の目を忍んで生きるパレルモが、道端に倒れていたレーニエ(Lenie)を匿(かくま)うところから幕が上がる。そして同居人エリチェも、ある事故から怪我を負ったところを少女ユーン(Yurn)に助けられる。
 人間関係の主軸はこの3組にあるが、物語全体をまたがる人物達が、流れを1つのうねりへとまとめる役割を果たしている。気品のある画像と心地よい音楽に彩られ、情緒ある雰囲気を作り出すことに成功している。古我望*1 による文章には気品があり、シナリオの出来も良い。裏社会に焦点を当てた物語づくりには、相田裕(本作での原画担当)の『GUNSLINGER GIRL』とに共通点を容易に見いだすことができ、読み手の想像は膨らんでいく。
 声による演技は、手放しに褒めたい。特にメイン・ヒロインのレーニエ(声:長谷川智子)とティ(声:倖月美和)は、この人を置いて他には考えられないという人選でした。
――と、ほぼ絶賛に近いです。ある1点を除けば(とはいえ、これが致命的)。
 この物語を《愛情を捧げられる男性》の視点、すなわちギャルゲー文法で捉えると、何も文句の付けようはありません。だからこそ、物語を《少女》の側から眺めようとすると、不安にさいなまれてしまうのです。世間知らずとはいえ、そこそこに社会経験を持っているティがアランを好きになるというのは分かります。彼は、好かれるに足るだけのことをしているし。でも、レーニエの《好き》は愛玩動物(ペット)が飼い主を慕う《好き》であり、ユーンのそれは籠(かご)の中に閉じこめられた「つがい」が相手に心を寄せる感情なのではないのか、と。
 PC版だと性交渉を持たせる必要があったので、このような描写になったのだということは分かります。ただ、それがコンシューマー版によって濾過(ろか)され純化されると、物語における不自然さが際だってしまうのです。不自然というより、不道徳と呼んだ方がよいかもしれません。少女達が、並々ならぬ《感情》を抱くことを非難しているわけではないです。それを受け止める「大人の男性達」の側を甘やかしたシナリオになってしまっているのではないでしょうか、ということ。少女(あるいは少年)が《感情》に恋愛という名称を与えたとしても、それを投げかけられた相手が大人の世界に身を置いている者なら、無邪気に受け止めてはいけないと思うのです。
 具体的に言うと、中学生の女の子から「先生のこと、好きです」とか言われても、受け入れちゃダメなんだよ!*2 どんなに本気で好きになっても、行動に移してしまったら社会から放逐されるんだから(←ルサンチマン
 たかがゲームに、どうしてそんなこと言うかな〜 といぶかしまれることでしょうが、本作に少しばかり抑制の感情を組み入れることで、より広い層に受け入れられる物語に発展するのではないかと思える。そこが惜しまれるのです。なんか、成長した女性であるシエナ(声:浅野るり)やレプレ(声:幸田夏穂)の扱いが、ぞんざいな気がするん。ほら、この表紙。レプレ(中央左)は後ろ向きだし、シエナに至っては描かれてません……
BITTERSWEET FOOLS ビジュアルファンブック (RASPBERRY BOOKS)
 ともかく、私(の主観)は“BITTERSWEET FOOLS”を気に入っています。ロリータ・コンプレックスと言われようとも、ペドフィリアと蔑まれようとも。サウンドトラック『Dolce』(ASIN:B00007M8XE)も買ったし、探し求めていた『ビジュアルファンブック』(ISBN:4797321911)がとらのあな札幌店の店頭に残っていて驚喜したし。フィレンツェへ再び取材旅行に行く予定も立てているし*3。彼女たちの衣装は制服ではありませんけれど、第1ボタンまでしっかり留めている着こなし方には、制服愛好という視線に訴えかける《記号》が込められているようで興味深い。
 文章を取り出して小説に仕立てても、十分読むに足るだけの質を備えている。ただ、シナリオの分岐は少ないので、これがゲームという形態である必要はないように感じる。むしろシーケンシャルに並べて、アニメとして楽しむ方が相応しい作品かな。

*1:http://www.lampbox.com/

*2:クラリスに手を出さなかったルパンは、その意味で尊敬に値する。他にも『カードキャプターさくら』第10巻では雪兎が自覚的に振る舞っていて、従前のCLAMPとは物語構造が違うなと思いました。

*3:冗談ではないですよ。私には『マリみて』の舞台探訪でイタリアまで出かけた実績があるんだから!