風の十二方位

 先日、久しぶりにリアル書店に出かけて、気になっていた作品を大量に買い込んできた。書評を読んで気になっていたものが殆どだったもので、内容を知らないまま家まで持ち帰った。開封してみて気づいたのだが――吸血鬼ものが4作ある(^^;)

  • ネコミミモード
  • “鼻血ブー”
  • “クロエとミサキ”
  • “貧乳ショートカット”

 有馬啓太郎月詠』は今さらでしょうから、読了記録として残しておくにとどめます。私は2年ほど日本にいなかったので、乗り遅れちゃったんですよね。うにゃにゃーん♪ 他2作は、日を改めて文章を起こすつもりです。
 本日取り上げたいのは、海野螢(うんの・ほたる)『風の十二方位』(2003年/ISBN:4925148494)。以前読んだ短編集に惹かれて、初単行本も買い求めてみました。
 これまたヒロインが吸血鬼なのですが、独自性があるのは「吸うもの」と「吸い方」。血液ではなく体液ならば何でも良いということで、キスをして唾液を交換してみたり、えーと、あのー、そのー、成年向けの描写になったりする。
 なんとなく、ここまでヴァンパイアのイコンを操作してしまうと、「それはすでに吸血鬼ではなくって、残されているのは八重歯がキュートなところだけだろ」という気もしますが。
 さらにもうひとつ本作を特色づけているのは、体液を吸収されること(捕食)により被対象者が消えてしまうということ。彼らは「オメラス」と称される別次元へと転移させられる*1
 失踪という形で人々が消えていく。しかし、彼女らは食餌をしなければ存在を維持することができない。その狭間に主人公が置かれる。ここでは、『月姫』においてさっちん弓塚さつき)シナリオが掲げたものと同じ主題が提示される。海野が示した回答は青臭さがあって、練り上げ切れていない。それでも物語を真剣に作ろうとしているひたむきさを感じる。こういう作家を応援してあげたい。


▼ 書評
http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/juunihoui.html (谷口隆一氏)

*1:あとがきにおいて作者は、アーシュラ・K・ル=グウィン「オメラスから歩み去る人々」(『十二方位』(ISBN:4150103992)所収)をモチーフとして本作を組み立てていることを述べている。