BOYS n’ GIRLS
小菅勇太郎『ボイズンガルズ』(ISBN:4758002614)。昨年12月19日に逝去した著者の遺作集。
小菅の作品には,女のコの泣き顔が付きものでした。そして,女のコが泣き出してしまうような場面を描かせたら,右に出る者はいませんでした。それは《陵辱》という道筋で導かれることも多かったのですが,決して加虐趣味を煽るためのものではなく,女のコの内面性を描こうとした帰結としての涙。
初単行本『きれいな恋をしよう』に収められている“OVERLAP”では,双子の姉妹と主人公の3人による恋物語が展開される。高い叙情性から,私はこれを氏の代表作として推したい。
▼ “OVERLAP”より楠瀬美由紀(と思わせて,実は姉の美姫) *1
この短編をきっかけに,以来ずっと小菅の作品を追いかけてきた。愛おしさと切なさを含んだ物語は,細い線を重ね合わせることで醸し出される潤んだ瞳によって,きらめいたものに仕上がっていた。私はいつも,彼女たちの泣き顔に見とれていた。女のコの泣き顔には,劣情を催す何かが含まれている。
おそらく今回で,小菅の作品を手にする楽しみの最後となる。
表題作『BOYS n’ GIRLS』は未完。中盤の山場(第7話)で絶筆となっているのが悔やまれるが,後期の小菅が繰り出していたコミカルなノリは存分に発揮されている。他に初期の短編5本を収録しているが,これらのいずれにしても小菅ならではの味わいがある。
評論家めいて主観を排して言えば,長編では中盤あたりで物語の主題がぼやけてしまうという弱点はありました。マンガ史を転換させるような目立った業績を残せなかったので,歴史の中に名前が残ることはないでしょう。でも……
小菅勇太郎さん,あなたの作品が大好きでした。ありがとう,そして,さようなら。
*1:旧版:ISBN:4883860515,新装版:ISBN:4886538185