世界歴史の旅 パリ

 福井憲彦(ふくい・のりひこ)+稲葉宏爾(いなば・こうじ)『世界歴史の旅 パリ 建築と都市』(2003年,ISBN:4634633000)を読む。

世界歴史の旅 パリ―建築と都市
 パリの建築物について述べる力作。
 第一部「建築でたどるパリの歴史」では時系列順に,第二部「歩いて眺めるパリの街と建築14コース」では地域ごとに解説し,縦糸と横糸を紡いでいく。特に近現代建築については取り上げている箇所が多く,20世紀初頭の住宅建築については写真も豊富。
 質,量ともに圧巻。しかし,まんべんなく取り上げていることが災いして,叙述は平板的なきらいがある。あの「山川出版社」が送り出している本だけあって,いかにも教科書的な作り。主観が排されているため,躍動感に欠ける。本文で言及する前にコラムが登場したりするなど,構成上の失敗も見られる。図版の使い方も,あまり上手ではない。建物に通し番号を振って,地図と対応させてくれたら楽に参照できたのに,と思う。前半の歴史編では,使われている地図が古代ローマ時代のものだけというのも不親切。ナポレオン3世による都市改造についての箇所は次のような記述になっているが,

 ローマ帝政時代以来の南北軸,サン・ジャック通りからサン・マルタン通りへという軸は残し,その西側に,左岸のサン・ミシェル大通り,シテ島の裁判所大通り,そして右岸のセバストポル大通りへとぬける,新しい,もっと幅の広い南北軸をもう1本通す。右岸では,リヴォリ通りからサン・タントワーヌ通りへとぬける東西軸をこれと交差させた。(中略)左岸では,サン・ジェルマン大通りが学生街の真ん中で2本の南北軸と交差したあと,その東西いずれの側でも弓なりに折れてセーヌの橋に向かい,右岸へと接続する。(60-61頁)

これなどは図示してくれれば良かったのに,と思う。
 叙述に難点はあるものの,参考書的な使い方をするならば頼りがいがある。