チェーザレ・ボルジア

 昨晩は研究会の後,後輩に誘われて(自棄)酒を飲みに行く。家に帰り着いたところで尽き果て,寝台の上で倒れ込む。26時過ぎに目が覚めたので,読みかけであった塩野七生(しおの・ななみ)『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷*1を開く。
 今を去ること500年前,ローマ法王アレッサンドロVI世の私生児として生まれながら,枢機卿にまで登り詰めた美男子。そして〈緋の衣〉を脱ぎ捨てて還俗し,ローマ法王領/ナポリ王国/フィレンツェ共和国/ヴェネツィア共和国/ミラノ公爵に分立していたイタリアの統一を目論んだ武人。かのレオナルド・ダ・ヴィンチを技術顧問として雇い入れた才覚者であり,後にはマキャヴェッリをして『君主論』を書かせることになるマキャヴェリズムの体現者。そして,カエサル(Caesar)の名を戴く者,それがチェーザレ・ボルジア(Cesare Borgia, 1475-1507)。

 暗殺,裏切り,権謀術数…… 間違っても為政者にはなりたくないねぇ。
 本作は35年ほど前に書かれた,塩野の初期作品。後に続く塩野文学のエッセンスが萌芽を見せているのですが,欠点もはっきり見て取れる。今でこそ読みやすい文体へと向上してきていますが,この頃は読点の打ち方が奇妙で,文の修飾も冗長。とにかく読みづらい。少なくとも名文とは言い難い。
 そういえば――と,思い出したのがカーラ教授こと川原泉(かわはら・いずみ)の『バビロンまで何マイル?』(ISBN:4592883187)。こちらも書庫から取りだしてきて再読。
バビロンまで何マイル? (白泉社文庫)
 溺れかけていたノーム(地霊)を助けた御礼として「ソロモンの指輪」をもらった仁希と友理は,指輪の力で時代を移動させられてしまう。そこで取り上げられているのが1500年に起こったナポリ王子(匿名A)暗殺事件であり,まさにチェーザレの物語。
 塩野七生マキャヴェッリの叙述を援用して政治の視点から綴るのに対し,カーラ教授チェーザレの妹ルクレツィア(と,その二度目の夫アルフォンソ)からの視点で描く。エピソードの取り上げ方に,それぞれの持ち味がはっきりと出ており,組み合わせて読むと相乗効果で面白みが増す。お試しあれ。

*1:文庫版:ISBN:4101181020,著作集:ISBN:4106465035,単行本:ISBN:4103096012