大学院はてな :: 女性の昇格差別

 研究会にて,住友金属工業(男女差別)事件(大阪地裁判決・平成17年3月28日・労働判例898号40頁)*1の検討。
 原告ら,昭和37年から昭和50年にかけて入社した4名の女性。女性であることを理由として昇格および昇級において差別的取扱いを受けたとして,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。
 この会社には,5つの査定区分が存在した。賃金の低い順に,

  • 高卒女性事務職
  • LC(ブルーカラー労働からホワイトカラー労働へと移った者)
  • BH(LCの中から選抜された者)
  • 高卒男子事務職
  • 大卒

となっている。原告らは最も低い査定区分に属しており,当初は定型的・補助的業務を担当いたが,入社20年目あたりから高卒男性事務職と同じように契約業務等に従事するようになった。
 そこで,(1)主位的に男性事務職との賃金差額を,(2)予備的にLC転換者との賃金差額相当額の精神的損害賠償金を請求したもの。
 裁判所は,請求を一部認容。予備的請求を認め,昭和61年以降の分についての差額賃金*2と,精神的苦痛に対する慰謝料*3の支払いを命じた。
 このような差別事件の場合,「誰との比較で」「どれだけの賃金格差が」生じているかを明らかにするのが難しい。本件の場合,会社が作成した人事資料で5種類の区分がなされており,女性が差別されていることを外形的に立証するのが比較的容易な事案であった(労働時間管理でも同じだが,いい加減に運用している会社ほど立証しづらいという困ったことが起こる。)。
 男女差別については,社会状況を反映させて時代区分をするのが一般的である*4

  • 第1期 :: 募集・採用について,男女間で異なる取扱いをすることが違法ではなかった時代。
  • 第2期 :: 1985(昭和60)年,男女雇用機会均等法が制定されて以降。男女差別という意識の芽生え。1997(平成9)年6月には,男女間で差別的取扱いをしないことが使用者の努力義務となる。
  • 第3期 :: 1999(平成11)年,改正均等法において強行法規が盛り込まれて以降。職掌転換制度を実施するなどして差別的取扱いを是正する措置を採らなければ違法となる時代。

 本件では昭和61年以降の賃金差額を請求しているが,これはおそらく均等法が施行された後は「性別のみによる不合理な差別的取扱い」が「民法90条の控除に反する違法なものである」という趣旨のものと思われる。
 ただ,問題なのは,男女差別を是正すべきであったということは言えても,いったい損害額は幾らなのか。裁判所は,原告らがある時期から

本来男性事務職が担当していた一定の判断や交渉が必要となる業務の一部を実質的に任されるようになり,高卒事務職の男女間における業務内容の相違は,相対的なものとなった

とは述べているが,まったく同一の労務に従事していたとはしていない。「同一労働同一賃金」ということができないため,主位的請求(男性高卒事務職との差額)を認めず予備的請求に留めたのではないかと思われるところ。裁判所の苦労の跡がうかがえる。

*1:判決原文は,→ courts.go.jp

*2:X1:1415万円,X2:1413万円,X3:1125万円,X4:887万円

*3:X1:300万円,X2:250万円,X3:200万円,X4:150万円

*4:例えばこのような時代区分を反映した判断を行っているものとして,住友電気工業事件(大阪地判・平成12年7月31日・労働判例792号48頁),野村證券(男女差別)事件(東京地判・平成14年2月20日労働判例882号12頁),兼松(男女差別)事件(東京地判・平成15年11月5日・労働判例867号19頁),岡谷鋼機事件(名古屋地判・平成16年12月22日・労働判例888号28頁)がある。