大学院はてな :: 障害者雇用

 本日発売の『季刊労働法』211号に,判例評釈を載せていただきました。取り上げたのは,横浜市学校保健会(歯科衛生士解雇)事件です*1
 しかし,あまり満足のいく論考ではありません(筆者自身がこういうことを言うのは失礼だと承知してはいるのですが……)。
 事情を明かすと,この事件を素材として部分的就労の可能性を検討しておりました。これは「障害を持つ人も障害の程度に応じて働ける社会」の実現を目指すということです。例えば,身体障害によって稼得能力が低下したような場合,現状では解雇されて社会福祉を受給することになりますが,それに代わり稼得能力に見合った賃金で雇用されることを保障しようというものです。
 で,結論としては無理でした。
 例えばオランダでは部分的就労が実現されようとしているのですが,これは「就労能力に応じた仕事と所得」法という立法によって政治的に解決されています*2。だからといって,日本でも実現されるべきだというのは早計(それは運動論に過ぎず,解釈論ではない)。理念として共感するところはありましたが,本件は裁判制度を通じて司法的に解決するのに相応しい問題ではない――と結論づけ,判旨賛成の立場を取りました。実定法の研究者としては,法創造的な行動は謹むべきでしょう。障害者に雇用の場を提供するにしても,それは新たな労働契約の締結であると考えられます*3
 そんなわけで筆者には割り切れない思いがあるのですが,「裁判では解決できない課題があります」ということを伝えるのも役割だと思い,投稿した次第です。これが障害者雇用についての議論を喚起するきっかけとでもなれば幸いです。

*1:事案については id:genesis:20050709:p1 を参照してください

*2:http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2005_4/holland_01.htm

*3:本件は,健常であった時に締結した従前の契約が存続することの確認を求めているところに無理がある。これが,身体への負担の少ない職場に移動しての就労を求めるものであれば,調整的な解決が図られる余地も無いわけではない事案であった。