大学院はてな :: 国労採用差別

 研究会にて,国労採用差別・鉄建公団訴訟*1の検討。
 1987(昭和62)年4月1日にJRを発足させるにあたり,国家を挙げての壮大な不当労働行為が仕組まれました。

  • JRの設立委員は,国鉄に引き継がれる人員の選定を委託する
  • 国鉄は,組合所属によって差別した名簿を作成して,設立委員に渡す
  • 設立委員は名簿搭載者をJRに採用する

すなわち,承継法人(JR)に移行する人員を選んだのは国鉄である,という〈フィクション〉を講じたわけです*2。そこで,JRに採用されなかった組合員らが雇用されることを求めて争いを起こしました。
 北海道地方労働委員会は,これを労働組合法7条にいう不当労働行為であると認定*3中央労働委員会では,救済方法について変更があったものの,不当労働行為があったという認定は維持されました*4。かかる行政救済の取消訴訟が裁判所に提起されましたが,第一審,控訴審ともJR各社の不当労働行為責任を否定して労働委員会の命令を取消。最高裁において,JRは採用差別の責任を負わないとする判断が確定します*5
 それならば―― ということで提起されたのが今回の訴訟。採用差別について「JRは責任を負わない」のであれば「国鉄の責任を問う」ことにしたわけです。
 実は,現在も《国鉄を継ぐもの》が存在します。
 国鉄は,JR発足と同時に「国鉄清算事業団」となりましたが,1998(平成10)年に解散しています。しかし,国鉄の法的な地位は「鉄建公団」が承継していることから,鉄建公団を相手取って国労組合員らが訴訟を起こしたものです*6
 結論は,組合員らの勝訴。採用差別による慰謝料として一人につき500万円を支払うよう命じられました。
 議論したのは,3年間の時限立法であった「再就職支援法」が失効したことを理由に,労働者らが解雇されている点。裁判所は,解雇を有効として,金銭的賠償のみを認めました。しかし,法理に照らして考えれば,法律が失効したからといって,ただちに整理解雇が認められるわけではないだろう――と。控訴審段階での判断がどのように変更されるのか,注目されるところでしょう。

*1:東京地裁判決 平成17年9月15日 判例時報1906号10頁

*2:国鉄改革法23条。

*3:国労について:平成1年1月12日。動労について:平成1年3月20日

*4:国労:平成5年12月15日。動労:平成6年1月19日。

*5:最一小判 平成15年12月22日 民集57巻11号。一連の訴訟を解説するものとして,道幸哲也「JRの採用差別の不当労働行為性」ジュリスト1269号『平成15年度重要判例解説』220頁がある。

*6:なお,鉄建公団は2003(平成15)年に「独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構」に改組されている。