海野螢 『めもり星人』

 あぁ,なんて美しいのだろう。
 移ろいゆく様々な宙の青が織り込まれた表紙。まるで,これから上映の始まろうとしているプラネタリウムのよう。半透明なシートを被せるという仕掛けが施されており,素敵な質感を漂わせている。取り外して透かしてみたところで趣向に気付く“遊び心”もあって。造本に惚れ込んだのは久しぶりだ。
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 彼女(実は性別不詳なのだが,とりあえず女性ということにしておく)は,みーむ*1。メモリ星人。一万四千歳。故郷は,おおいぬ座シリウスBの第三惑星。主食はニコチン。甘いモノは別腹(いずれも自称)。
 嫌でも『エマノン』を想起させる。なんと本書の解説は,SF作家の梶尾真治。こんなところで不意に出会えるとは。そのカジシンをして,

「無限の中にある切り取られた有限」や,「瞬間と永遠の対比」を語ることが可能なジャンルはSFだけだと思っている。海野さんのコミックに,私がSFに対して抱いているものと同質のベクトルを感じるのだ。

などと言わしめるなんて,とても幸福なこと。
 4編の物語に与えられた名は,幼年期の終り*2無伴奏ソナタ*3,停滞空間*4夏への扉*5。そこで宣言されるのは,先人へのオマージュ。
 物語において綴られるのは,記憶,インセスト,存在,幻想―― どれもが星のようにきらめき,研ぎ澄まされていて,本当に,本当に美しい。
 海野螢めもり星人』(ISBN:4776718146)は,素晴らしい作品です。
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