大学院はてな :: 公務員の労働条件決定システム

 id:roumuya さんから,公務員の労働関係に関してお尋ねを頂きました。
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20060120
 内容は,諸外国における勤務条件法定主義についての件だったのですが,濱口桂一郎(hamachan)先生もコメントしておられるように,日本の法制度について共通理解を深めておいた方が有益な議論になるのではないでしょうか。
 そんなわけで,道幸哲也教授の論文「公務員労働団体の代表法理」*1が指し示す「集団的な労働条件決定システムの基本パターン」を紹介することで,返答に代えさせていただこうと思います。

 Aパターン。共同決定原則であり,労働条件の決定・変更につき組合の同意を必要とする。最判は前述のように憲法28条をこの趣旨で把握していると思われるが*2,疑問である。また,一般的にいって共同決定の前提には,労働者集団・組織の強制設立が必要とされよう。
 Bパターン。自主団結を前提に,団交により労働条件を決定し,団交自体が使用者に義務付けられるとともに協約に法的効力がある。これが憲法28条の趣旨であり,現行の労組法のシステムである。労働条件決定につき,必ずしも労働組合の〈同意〉までは必要とされていない点において,Aパターンと異なる。団結義務ではなく まさに団結「権」が前提となる。
 Cパターン。団交,協約の作成が予定されており,協約に法的効力があるが,協約内容によっては議会権限との調整を必要とする。現行特定独立行政法人等の労使関係法のシステムである。
 Dパターン。労使の団交およびその結果たる〈合意〉は想定し得るが,当該合意に法的拘束力がない。その意味では,団交は集団的な意思表明権に他ならない。これが現行国家公務員法のシステムである。

 そして,次のように説いています。

 議会の権限とともに集団的な労働条件決定原則を重視するならば,公務員についてはCの選択が妥当と思われる。公務員法制としての独自性は,交渉段階ではなく,むしろ合意の実施・拘束力のレベルで考えるべきである。また,議会権限との調整を通じてなされる一連の決定過程(団交→協約締結→協約の修正)の透明性を確保しうるという大きなメリットもある。

 そのうえで,Cパターンを前提とした場合における団体交渉の義務的交渉事項として以下のものを挙げます。

  • 一般的な管理・運営事項
  • 労働条件基準(議会権限との調整が必要)
  • 個別的人事(労働条件基準の適用について)
  • 人事管理システム(勤務成績に関するルール)
  • 仕事内容

 そして次のような示唆を与えています。

 以上のように団交・協約システムを構想していくと,公務員法における団交概念の見直しの必要がでてくる。つまり,[団交→協約の締結]という団交システム以外に,必ずしも協約の締結を目的としない説明中心の団交過程をも想定しうるからである。(53頁)

 なお,学会誌の同じ号に掲載されている渡辺賢*3「行政機関の多様性と労働条件決定システム」も参考になろうかと思います。


▼ 関連

アメリカの公務員制度はこれとは全く違っていて、行政機能を担う者は上から下まで全部公務員なんですね。(中略)日本側は身分論で考えているけれど、アメリカ側は機能論で考えている。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/01/post_2bfb.html

*1:日本労働法学会誌101号(2003年,ISBN:4589026732)39-55頁

*2:全逓名古屋中郵事件(最高裁大法廷判決・昭和52年5月4日・判例時報848号21頁)は,「私企業の労働者の場合のような労使による勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉権の保障はなく,右の共同決定のための団体交渉過程の一環として予定されている争議権もまた,憲法上,当然に保障されているものとはいえないのである」と判示している。国立新潟療養所事件(最三小判・昭和53年3月28日・判例時報884号107頁)も同旨。道幸教授は続けて,「しかし,憲法28条が労働組合との合意によらなければ労働条件の決定ができないという〈共同決定原則〉までを定めているわけではない」と述べ,「各労使関係の特質に応じて,28条をより柔軟にとらえる必要があると思われる」と説いている(45頁)。

*3:わたなべ・まさる。帝塚山大学法政策学部教授。専門は,行政法憲法,公務員労働法。