大学院はてな :: 代表取締役への損害賠償請求

 研究会にて,ジャージー高木乳業事件名古屋高裁金沢支判・平成17年5月18日・判例時報1898号130頁)の検討。
 被告Yは,会社Aの代表取締役。原告Xらは,A社の従業員であった者。A社は食品衛生法に違反して品質保持期限切れ牛乳を再利用し,集団食中毒を発生させた(2001年4月27日)。A社は翌日から営業を停止し,株主総会で解散を決議。すべての従業員を解雇した。そこでXらは,Yの任務懈怠によってA社が解散に追い込まれ,定年まで働くことができる期待ないし利益を侵害されたとして,商法266条の3第1項(改正前のもの)に基づき損害賠償を請求した事案。
 原審(金沢地判・平成15年10月6日・労働判例867号61頁)は,Yが保健所の指導を遵守するための方策に取り組むべき忠実義務に違反していたものとして請求を認容。慰謝料として各300万円の支払いを命じた。
 控訴審でも請求は認容されたものの,論旨が大きく変更された。損害額につき,「本件再利用とそれによる本件営業停止命令がなければ……当時の経営状況で,少なくともYの任期中である2年間は存続したものと推認することができる」として,個別に遺失利益を算定した。
 通常であれば,解雇の有効性を争おうとする労働者は会社を相手取って訴訟を起こすことになるが,本件では会社が解散しているうえに資力もない。そこで本件では,会社の業務を執行する際に故意または重大なる過失(重過失)によって第三者に損害を与えた場合にもそれを賠償する責任が生じるとする商法266条の3(第三者に対する責任)を持ちだしてきたもの。しかも請求が認められ,高額の支払いが代表取締役に命じられている。同種の事案は例がない。
 会社が消滅しているという特殊事情の故に成立した事案とはいえ,様々な点で今後の議論に大きな影響を与えそうな事件。