水原賢治 『あふたーすくーる』

 水原賢治(みずはら・けんじ)『あふたーすくーる 〜after school〜』(ISBN:4903471047)。寡作な作家であり,単行本が出るのはおよそ4年振り。マイナー誌やアンソロジー集に掲載された作品に,同人誌発表作も加えた珠玉作品集。青くみずみずしい性を綴った短編9本を収録(年齢制限は付されていないが性表現を扱っている)。

  1. 「真夏のひるさがり」 わずか5頁しかない小品だが,水原賢治の感性が良く現れている。清涼感あふれる淡い色調の巻頭カラー作品。性に目覚めた少女と少年が睦みあう情景を上手く切り出しており,強く印象に残る。「紺ブレザー×プリーツスカート×純白シャツ×ツインテール×上目づかい」に胸がときめく*1
  2. 「道場で候。」 ちょっぴり勝ち気な剣道少女が,道着の裾をつまんで……。
  3. 「夏の海辺で。」 台詞を交えないピンナップ集。
  4. 「青の時間」 彼が追い抜きざまにかける一言,ただその一瞬を心待ちにして坂道を登る少女。暮れなずむ風景をふんだんに折り込んでの心象描写が秀逸。
  5. 「meio 〜メイオ〜」 彼が見ているのは私? それとも私の中の君? 意識の在処を扱う。『はるかな風と空ののぞみ』(ISBN:4898293875)に連なる意欲的な取り組み。収録作の中で最も少女まんがチックなテイストの作品で,流星ひかるボクらがここにいる不思議」(ISBN:4847033973)を彷彿とさせる。
  6. 「holy night」 現れない彼に涙をこぼす少女,雪道を駆けバイクで乗り付ける青年――。かつて谷川史子が描いていたような模範的な恋の光景。時代が数十年ほど巻戻ったような感じすら起こさせる,芳醇なノスタルジー。少女まんがの正統なる末裔『コミックハイ!』編集部は,時宜を得て水原賢治に執筆を依頼すべきだ。
  7. 「お医者さんごっこ」 お兄ちゃんが,妹の,タンポンを(以下略)
  8. 「恋愛の条件」 女性教師が教え子の男子生徒と淫行に及んだという,実在の事件を範に取ったドキュメンタリー作品。
  9. 「兄と従姉と妹と」 従姉が,妹が,お兄ちゃんに(以下略)

 別々に書き連ねられたものが集められたものだが,それが幸いして著者の持ち味がバランス良く配合されている。水原賢治という作家を知るために好適な作品集。

*1: