米澤穂信 『氷菓』

 先日,乙一『GOTH』を読んだことで〈ライトノベルとミステリーの境界〉に位置する作品群に興味が湧いた。そこで周辺的な位置づけを持つものとして名前の挙げられていた作品*1米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)の『氷菓』(ISBN:4044271011)を読んでみる。
 とても面白かった。読み終わってすぐシリーズ続作を注文し,他の米澤作品の物色を始めたくらいに。
 *2
 高校に入学した折木少年は,姉がかつて部長を務めていたという古典部へ命じるまま入部する。ところが,いないはずの部員が部室に居て――
 登場する〈謎〉の数々は,ちょっとした不思議。いつの間にか閉じられた教室,毎週決まって借り出される図書室の蔵書。そして部員達は,33年前の出来事へと引き込まれていく。舞台設定に組み込まれた日常性が,まず第一の特徴だろう。
 そして登場人物の造形がいい。特に,ヒロイン千反田(ちたんだ)えるは抜き出でた趣がある。

合理的な人間は概して頭がいい。だが,それは合理的でない人間が愚かだということを示しはしない。千反田は愚かな人間ではないだろう。だが,決して合理的ではない。 
46‐47頁 

このように表現される思考のスタイルが,彼女の発言と行動とに反映され,シリーズの端緒から物語をぐいぐいと引っ張っていく。思考の明晰さと聡明さに惚れた。
 端正に組み立てられた物語とキャラクター指向の同居。これが,境界的な作風とされる所以(ゆえん)なのだろう。