大学院はてな :: 親会社の使用者性

 研究会にて,ブライト証券事件(東京地判・平成17年12月7日・労働経済判例速報1929号3頁)の検討。
 東証の立会売買終了に伴い才取業務から撤退することにしたZ2社は,100%出資の子会社Z1社を設立。従業員らは,Z2からZ1へと転籍した。初年度についてはZ1において生じた賃金原資不足分をZ2が補填することとし,Z1と労働組合の間で保障協定が締結されていた。次年度の賃金交渉において,Z1は賃金の大幅な減額を提案。そこで従業員らで組織するX労働組合は,親会社であるZ2との団体交渉を求めた。この要求をZ2が拒絶したため,労働委員会に対し不当労働行為であるとの訴えが提起されたもの。東京都労働委員会は申立を棄却。本件は,その取消訴訟である。
 裁判所は請求棄却。

 一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、労組法七条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、労働者を自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視し得る程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は同条の「使用者」に当たると解するのが相当である(最高裁朝日放送判決参照)。

このような判断枠組みを用いて,Z2の使用者性を否認した。
 しかし,この判断は不適切である。引用されている朝日放送事件*1は,番組制作現場において元請会社の社員と下請会社の従業員が混然となって職務に従事していた場合に,元請け会社が労働組合法上の使用者に当たるという判断をした事例であった。本件は「持ち株会社型」の紛争類型なのであり,判決の射程が異なる。
 加えて,朝日放送事件の枠組みに沿ったとしても,本件は親会社の使用者性が適用のレヴェルで肯定されて然るべき事案であった。親会社は子会社の生殺与奪を握っており,労働コストにどれだけの資金を振り向けるかを決定できる支配的な地位にあった。しかも決定的なことに,別会社という形態を取っていながら子会社の運営に関与することを明言した文書を残している。
 不甲斐ないのは,このような“助けられる事案”でも救済命令を出さない都労委。

*1:最三小判 平成7年2月28日 民集49巻2号594頁