川原泉 『レナード現象には理由がある』
川原泉(かわはら・いずみ)の新刊『レナード現象には理由(わけ)がある』(ISBN:4592142659)は,少女まんが好きならずとも楽しめる短編集。あ,一人称の主体が少年になっているものもあるから,少女まんがでは無いかも……。それ以前に,カーラ教授を〈少女まんが〉という枠の中に押し込めて良いのかという疑念もあるけれど,それはさておき。
超進学校を舞台にした連作。高校生によるボーイ・ミーツ・ガールもの,と言っても大枠では間違いではないと思う。
「レナード現象には理由がある」
成績はよろしくないが〈癒しの手〉を持ち級友に慕われる蕨よもぎ。一方,〈天が四物を与えた〉天才飛島穂高は,医学部への進学を親に反対される。「私が患者になった時 おまえのよーなタイプの医者に診てもらいたくないから」と言われて――
「ドングリにもほどがある」
中間テストにおいて,クラス順位38人中19位にして文系順位152人中76位という〈完璧なド真ん中〉で並んだ亘理美咲と友成新一郎。〈団栗の背競べ〉だと思っていたら,新一郎には〈普通〉じゃない才能があって――
「あの子の背中に羽がある」
お隣に引っ越してきた小学6年生の女児。彼女の背中にはランドセルのあたりから羽が生えているのに,他の人には見えていないらしく…… うぐぅ。
「真面目な人には裏がある」
お互いの兄がボーイ・ミーツ・ボーイしてしまった日夏晶と塔宮拓斗。思いもかけずBL小説の世界が現前化してしまい――
いずれも軽やかな筆致で描く。ここ7〜8年ほど低調でエッセイ風の作品が多かったカーラ教授ですが,返り咲きとしては見事。はじめて手にする川原泉作品としても卒がない仕上がり。
ただ,久しぶりに読むと絵柄の変化が気にはなります。かつての過剰なまでに豊富なネームと比べると画面構成がスッキリしていますが,これは老練の故と思えば味わい深い。では,何が引っかかっているのだろう? と旧作と見比べて考えてみたのですが,「大きく見開かれた瞳」の描き方が変わったせいでしょう。本作では,球体関節人形が持つガラスのような瞳になっていて,ちょっと怖いような感じを受けなくもない。