青池保子 『修道士ファルコ』

 青池保子(あおいけ・やすこ)『修道士ファルコ』*1。雑誌連載時に幾つかのエピソードを目にしていたのだが,文庫版を買ってきて通し読みした。
 時は14世紀後半。スペイン北西部ナバーラの王家に繋がる男が主人公。彼は剣を捨て,シトー派の修道士となる。そして,父祖の地ドイツの修道院に身を寄せる――という筋書き。歴史ものだが背景事情が程よく説かれており,展開は見事としか言いようがない。舞台設定からして読者の好奇心を刺激しつつ,さらに躍動感あるストーリー展開も用意され,ぐいぐいと引き込んでいく。
 初出を見るまで気がつかなかったのだけれど,掲載時期が2つに分かれている。第二期は2001〜02年だが,第一期は1991年から翌92年にかけて。十年ほどの空白期間があるのにスムーズに接続しているのは,作者の安定した力の為せる技だろう。

*1:文庫版:ISBN:4592886275。単行本は〔1〕ISBN:4592134338,〔2〕ISBN:4592131541