映画版 『笑う大天使』

 シアターキノにて,川原泉原作の映画『笑う大天使(ミカエル)』を観る。
http://www.michael-movie.com/
以下,ネタバレを含みます。
 失敗作。
 ものすごく「嘘っぽい」造りです。でも,それが悪いわけじゃない。開始早々,いかにも合成しました〜という学園の全景が出てくるのですが,「嘘っぽい」ことを堂々と主張しているので嫌みにならない。
 脇役陣の演技はひどかったけれど,怒り出すほどではない。メインの3人は「猫をかぶったお嬢様」なので除外しますが,同級生達の立ち居振る舞いは何とかして欲しいと思いましたけれど(あのね,本当に所作の美しい人ならば歩いている時に上半身は揺れないの。ガニマタ歩きで足音を立てる「お嬢様」の群れは,観ていて悲しかった。)。
 問題なのはプロット。張っておくべき伏線がない。エピソードとして「殿下のお見合い」というのが出てくるのだけれど,これが何の描写もなく唐突に会話に出てくる。原作で他にも色々あったエピソードのうち,この話を中心に据えたのは適切な選択だと思う。原作のエピソードを改変し,殿下の職業と「家族の発見」を結びつけたのも賢明。しかし,盛り上げに必要な描写すら省かれてしまっているので,最後での強引さが目立ってしまう。誘拐事件の前振りとなるはずの写真も,観客に見えているのは裏面だけ。伏線になっていませんでしたね。他にも「麦チョコ」の扱いなどは浮いてしまっていたし。
 そのくせ,無駄なところに労力を注いでいるんですよ。本筋とは関係ない戦闘シーンを長々と見せつけられるのだけれど,そんなものはマンガちっくなコマをちょっと挟んでおくだけで良かったのに。それが,海の向こうから連れてきた悪役がイタリア語で大熱演。「Signorita Signorina! これはB級映画なんですから,もうちょっと嘘っぽくやってくれないと……」と思う(伊語も少しは聞き取れるので声に注意していたのですが,主演の女優らより真剣に演じているのが分かって,申し訳なくなった)。さらにはVFXをこれでもか!と多用。バカバカしくあるべきカンフー・アクションの場面を真面目に造られると困る。こうなると,もはや痛々しい。
 監督の小田一夫氏はVFXスペシャリストだそうですが,それ故の失敗でしょうね。特殊技術を見せることがメインになるようでは本末転倒です。