大学院はてな :: 配転と家庭生活上の不利益

 研究会にて,ネスレ日本事件(大阪高判・平成18年4月14日・労働経済判例速報1935号12頁)の検討。以前,取り上げたことのある事件(id:genesis:20051008:p1)の控訴審
 配置転換については労働者にとって不利な判断になる傾向が強いが,本件は第一審に引き続き控訴審においても労働者側が勝訴しているという点で注目に値する。中でも,同居している母親(当時79歳,要介護2,痴呆症状あり)と,非定型精神病に罹患している妻の存在を理由に,当該配転は「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を労働者に負わせる者であると判断したところが特徴。
 裁判所は,改正育児休業法26条

(労働者の配置に関する配慮)
 事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。

を示し,会社の振る舞いは失当であると結論づけた。労働者の被る不利益を,労働契約の当事者だけを対象に限ることなく,妻や老親といった家族にまで広げて考慮し,かつ,これを認めているのは画期的な判断と言ってもよいだろう。