西尾維新 『クビキリサイクル』

 新千歳からセントレアへ向かう航空機の中で,西尾維新(にしお・いしん)『クビキリサイクル――青色サヴァン戯言遣い』(2002年2月,ISBN:4061822330)を読む。メフィスト賞受賞作。
 孤島に隠遁させられた洋風屋敷のお嬢様〈イリア〉が,慰みに天才と称される人々を島に招き入れる。その日,その館に居たのは5人の天才,4人のメイドさん,2人の付添人,そして1人の主人――
 35頁。未だ導入部も半ばに達していないところだというのに,早くも《戯言シリーズ》が気に入ってしまう。

 才能があるものにせよないものにせよ,結局のところ人間は二種類に分類される。それは追求する者と,創造する者。

こういう気の利いた言い回しを繰り出せるのなら,それだけで十分に敬意を払うに値する。もっとも,森博嗣らに比べると言葉の精度は及ばないように感じるけれども,軽やかに流れる文体との組み合わせであることを併せ考慮すれば遜色はない。
 筋立てだが,結末の仕掛け方が巧妙。ハウダニットホワイダニットを複層にして提示するのは冴えたやり方。
 本書にあっては,装丁を含めたヴィジュアル効果について触れないで済ますわけにはいかないだろう。竹(たけ)の描くイラストレーションが各章の冒頭に配置されている。人物紹介を兼ねる扉絵は『パワーパフガールズ』の如く強度にデフォルメ化されているが故に,虚構世界の中ではむしろリアリティ(現存性)を感じさせる。もしこれが写実的な絵柄だったりしたら,超人的存在である〈青色サヴァン〉こと玖渚友(くなぎさ・とも)らが現実空間には存在し得ないことを確認してしまっていたであろう。西尾維新と竹の組み合わせは,イラストが引き立て役以上の役割を果たした幸運な例だと思う。