美少女ゲーム年代記: 2000年12月29日「サード・インパクト――『月姫』」
/* プロットの初出は http://d.hatena.ne.jp/./genesis/20060406/p1 */
要旨
- 2001年の1月頃に起こった『月姫』ムーブメントが予兆。人気と実力と財力を蓄えたところで商業作品へと移り『Fate/stay night』(2004年,TYPE-MOON)を発表。
- 直線型シナリオ,ファンタジーへの回帰(cf.現代学園異能),主人公の復権,「ジュブナイル・ビルドゥングスロマン」
- 物語性の変化(ライトノベルへの接近)
竹箒の意義
『月姫』が変化させたものは「主人公」の姿であった。『To Heart』が打ち立てた基本構造は,ヒロイン(美少女)を主体にして物語を展開させるというものであった。主人公(少年)は美少女に従う存在であり,客体としての位置を占めることになる。
このような構造のもとでは,主人公の個性や積極性というのは邪魔になり,主人公は「誰でもない匿名の誰か(anonymous)」であることが求められる。ゲームの中の主人公に任意のプレイヤーの名前を代入しても,違和感なくシナリオを展開できる。『A I R』にあっては主人公が物語に介入することさえ排除され,人間たる地位を追われるまでに行き着いた。
そうした主人公像が『月姫』では大きく変わる。この物語の主人公は《直死の魔眼》を持つ「遠野志貴」でなければならず,代替性が無い。すなわち,『月姫』の主体は主人公(少年)なのである。
ヒロイン達のキャラクター造形は,それまでに培われたノベルゲームからの引用によって成り立っているし,ゲームシステムもビジュアルノベルに汎用的なNscripterを用いているのであるから,外形上の特徴からすれば『月姫』は〈美少女ゲーム〉であることに変わりはない。けれども,その実質が根本的に異なっている。この変化を「主人公の復権」と呼んでも良いだろう。
Fate
多くのエロゲーは,ヒロインを選択することによって物語が分岐する構造を持つ。そして、それぞれの物語は選択されたヒロインのものとなる。全ての分岐する物語がそうであるから,主人公は自らの物語を持たない存在となる。これが、いわゆるエロゲー的無個性な主人公である。
自らの物語を持たない主人公が何を目的とするかというと,ヒロインを救ったり,幸せにしたり,モノにしたりすることとなる。その結果がどんな事象として描かれるかというと,セックスである。全てのエロゲー主人公が,ヒロインとあんなことやこんなことをするために行動するわけではないが,少なくとも。「ゲームクリア報酬」がそのようなものである以上。プレイヤーの意識もまたそのようなものになる。
こうして、主人公はエロスに規定される。
http://catfist.s115.xrea.com/wiki/wiki.cgi?page=Diary%2F2006%2D06%2D11
ゲームでしか表現できない特性というのは、ゲームは似たような状況の話を複数回読むことが当たり前とされているというあたりから考えられる...
似たような話を複数回読むっていうのは,その話が最終的に一つの話に還元される一要素としてではなくて,あくまでそれぞれ独立した話ままであるってあたりがポイントです。...
複数のシナリオをプレイヤーが読むという行為自体が,パラレルワールドのような他の世界,可能性を想起させることになります。
http://d.hatena.ne.jp/./simula/20061016/p1